大江戸ロミオ&ジュリエット

「そう思うのであらばな、松波。
そちの力を、()()とも借りとうござることがあるのじゃが」

奉行の方からとはめずらしい。
大概(たいがい)「松波、良きに計らえ」と丸投げ……ではなく「お任せ」になるのに。

「この松波 源兵衛でお役に立てるのであらば、
なんなりとお申しつけくだされ」

源兵衛は面を上げた。

「よう云うた、松波。
実は、北町の御奉行とも話し()うたんじゃが」

互いの与力・同心同士の、ろくに口もきかぬほどの犬猿の仲は目に余るほどだというのに、それらを()べる奉行同士の仲は、意外なことにさほどでもないのだな、と源兵衛は思った。

「だれかが先陣を切って『親戚付き合い』をする間柄になれば手っ取り早いと思うてな。
それも、みなの『手本』となる御役目の者にな」

富多 能登守は、ぐっ、と身を乗り出した。

「どうだ、松波。
……そちの(せがれ)を、北町の年番方与力の娘と縁組させてみぬか」

< 9 / 389 >

この作品をシェア

pagetop