目覚めたら、社長と結婚してました

【5th piece of memory】

 私の誕生日をお祝いし、入籍をとりあえず済ませてから、怜二さんは予定通り二週間の出張に行ってしまった。その間、私は荷物をまとめて引っ越しの準備を行うことになっている。

 彼が戻って来てからはマンションで一緒に住むことになったから。

 恋愛経験がほぼない私が結婚して男性と一緒に住むなんて、もう緊張しかない。左手の薬指に指輪をはめた経験ももちろんなく、何度も確かめるように見てしまう。

 私、本当に結婚したのかな?

 無事に婚姻届が受理されたから、今の私は『平松柚花』ではなく『天宮柚花』になっている。けれどまったく実感が湧かない。

 しかも結婚相手が自分の会社の社長だなんて。こんな展開、神様でも予想できなかっただろうな。私も、怜二さんも出会った頃には考えられない未来だ。

 十一月半ば、怜二さんが帰ってきてからマンションで始まった結婚生活は、思ったよりも楽しく過ごせた。

 本があるから会話には困らないし、同じベッドで寝るもののキスより先のことは求められない。

 思えばこのマンションに初めて足を運んだあの日も、意外なことに彼はなにもしてこなかった。書斎ではしゃぐ私を呆れつつも、どこか穏やかな顔で彼は見ていた。

 お互いのことをぽつぽつと語って、これからのことを話し合う。泊まりはしたけれど、結果手を出されることはなかったし。

 それがいいのか悪いのかはわからない。
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