ツンデレ黒王子のわんこ姫

父の狙い

「ねえ、中庭の人だかり見た？」

食堂で、健琉が久しぶりに葵生とランチをとっていると

「新入社員の女子二人に群がってる男性社員？」

「そうそう、白木さんと中野さんだっけ、営業部の井上さんと牛島さん、あの二人を狙ってるって言ってたもんね。」

パーテーションを挟んで、健琉と葵生の後ろに座る女子社員の話し声が聞こえてきた。

"白木って、芽以か？"

驚いて健琉は聞き耳をたてた。

「その上、オタクの衞藤と岡島もいたわよ」

「えー、キモいー。あいつら百合好きでしょう？"芽以たん""遥香たん"とかいって変な漫画描いてるって聞いたよ？」

「そういえば開発部の新人の沢城くんもいたなー。あの三人仲がいいよね。沢城くん、最近見かけなかったけど、研修期間とか、良く３人でいたよね」

「美少女３人って感じで、ほのぼのするよねー」

健琉が目を離したたった半日で、どうしてここまでこじれるのか？

健琉は頭を抱えた。

「健琉どうした？」

心配そうに健琉の顔を覗き込む葵生の様子に、満足気に腐女子軍団が溜め息をこぼす。

もちろん、葵生のサービスだ。

パーテーションと反対側にいる葵生には、女子社員の話はほとんど聞こえていない。

「足元ばかりを見ていたせいで、全体を見誤った」

久しぶりの定食は味気なかった。

健琉は、顔をしかめて食べ終わった食器を返却口に戻すと、葵生をおいて社食を飛び出した。


「これは、これは黒田くん。」

後ろから健琉を呼び止める声に振り返ると、当社の社長であり、父親である"黒田総司"が立っていた。

会社に入社する際、縁故入社と思われないようにと、健琉と総司の親子関係は公表していない。

「ちょっと話したいことがある。これから社長室に来てくれたまえ」

黒田はそう言うと、秘書の矢嶋を引き連れて立ち去った。

健琉は中庭の様子が気になったが、社長の言いつけに逆らうこともできず、二人のあとを追って社長室に向かった。