気がつけば・・・愛
運命の歯車

良憲 side

この寺に迎えられて3年
ここでの生活にも漸く慣れてきた

寺の朝は早い
目覚ましが必要ないのは
子供の頃からの積み重ねなのかもしれない





午前中檀家回りが思ったより早く済み
2本早いバスで寺に戻ると

見慣れない車が停まっていた

檀家さんだとお待たせしては申し訳ないと
いつもより早足で山門まで駆け上がる

しかし・・・

視線の先の本堂前には気配さえ感じられず
渡り廊下で繋がる自宅へと足を進めた

「居ないな」

シンとした玄関から
不在を知らせる木札を外すと

境内の先にある墓地へと向かった

途中‥

ーーあっーー


見頃を迎えた花をカメラに収めるご婦人を
広い境内の隅に見つけた

何度もシャッターを押す姿を
しばらく見ていると

あることに気づいた


ーー見間違いじゃないのかーー


ファインダーを覗く横顔に面影を見つけ
懐かしさが込み上げる


ーー間違いないーー


花を眺めてフワリと微笑む笑顔は
あの頃より随分と経った年月を
感じさせない程輝いて見える

記憶の糸を手繰るように
その背中を目で追った



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