恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
肆・可哀想な新妻

三月。

星稜王の軍が古斑軍に勝利したという一報が送られてきたのは、飛龍たちが出陣して一月後のことだった。星稜王府は歓喜に包まれた。

「緑礼! 殿下が帰ってくるわ!」

誰より大っぴらに喜んだのは鳴鈴である。彼女は緑礼の両手を握り、廊下でくるくる回った。

「おめでたいことでございます」

緑礼は鳴鈴が裾を踏んで転ぶ前に彼女を止めた。

「こうしてはいられないわ。殿下をお迎えする準備をしなくては」

飛龍が出陣してからというもの、鳴鈴は髪飾りも被帛もない、未婚時代以下の質素な装いをしてぼんやりと過ごしていた。

一足先に帰ってきた伝令兵によると、飛龍たちは三日後に王府に辿り着くだろうという。

ならば、装いや髪型を決めるのは直前でいい。

鳴鈴は帰ってくる兵士たちのための食事の準備をし、酒を多めに買い付けてくるように命じた。

そして次の日。

「私は殿下のお部屋を整えます」

歓迎の準備の指示をあらかた出した後、鳴鈴は侍女たちにそう宣言した。

「お妃さま、それは私たちの仕事で……」

「皆さんは忙しいでしょ。私と緑礼に任せて」


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