出稼ぎ公女の就活事情。
第四章 カランコエの花言葉
 ああ、とわたしは気づいた。
 モンタさんの何が『異端』なのか。

 ルグランディリアの民なら誰しもが生まれた時から着けている耳飾り、それがない。

ーーモンタさんはこの国の生まれじゃない。

 だから、疑われて、連れ込まれて、囲まれた?

 戦争が噂されているから。
 だとしたら、モンタさんの生まれた国と、噂には関連があるということだろうか。

 獣人で、でもルグランディリアの生まれではなくて、この街に暮らしている。

 だったらモンタさんの生まれた国は?

 
「姉ちゃんこんな早く来るとか珍しいな。いつもと間隔違ってないか?」
「え?ええ」

 まるで街で会ったのがなかったみたいにいつも通りの気さくな口調で言うモンタさんの左目の上にはガーゼが貼られ、顎にも赤紫色の内出血の痕があった。

「あ、こないだは悪かったなぁ!ほら、あないにボコボコにされて、カッコ悪うて。つい愛想わるぅしてもうたわ……」

 ポリポリと頭をかく仕草と語り口は、嘘を言っているようには見えない。
 だけど。
 そうなのか、と易々と信用することも納得することも、もうできなかった。

 モンタさんがルグランディリアの生まれではなく、おそらく隣国のカルド王国の生まれだから、というわけではない。
 ただモンタさんは、いつものようにわたしの目をちゃんと見ていなかったから。

 ほんのわずか、意識していなければ気づかなかっただろうくらいにわずかに逸らされた視線。それがわたしとモンタさんの距離を離してしまった気がした。

「……いえ、気にしないで下さい」

 わたしはつくり笑顔でそう言うと、モンタさんから物理的にも離れようとする。
 
「わたし、カウンターに並ぶので」

 言って、カウンターの列に向かおうとしたわたしの手首をモンタさんの毛むくじゃらの手が握った。

  



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