飴と傘
「楽しみだけど、ちょっと心配だよな。萩岡係長、前の編曲の時はストレスで痩せただろ。演奏するだけの俺たちと違って責任があるから、大変だと思うよ」

 帰宅した響の言葉に、はっとした。

 萩岡係長が初めてミズモリケントの編曲を担当したとき、「こんなにプレッシャーを感じたのは生れてはじめてかも」と言っていたっけ。

「……あの時はミズモリさんの歌手生命がかかってたけど、今なら大丈夫じゃない?」

 ミズモリケントは広告代理店を辞めて歌手デビューしたものの、しばらく鳴かず飛ばずで、いよいよ引退かというところまできていた。だが、係長が編曲した曲の大ヒットでピンチを脱したのだ。

「どうかな……ビール、冷えてたっけ?」

「うん、あるよ」

 響は冷蔵庫を開けた。

「……飴、また増えてる」

「気付いた? 帰りにデバ地下で見つけたの。今日のはレアだよ。普段は地方の店舗でしか売ってないんだって。きれいでしょ?」

 淡い黄色の透き通ったまあるい飴が、透明な袋に入っている。響が取り出すと、飴同士がぶつかって、コツコツと音を立てた。
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