混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
7)青い不死鳥号、出港!
 港は、見送りの人々でごった返していた。ガブリエル・イザード氏は、部下を信頼しており、部下達の仕事に現場でよけいな口を出すような人物では無いらしい。

 そんなわけで、既にキャビンへと案内された婚約者候補の元を尋ねる事にしたガブリエル・イザードは、女性二人のキャビンの扉の前に立っていた。

 もし、ガブリエルがノックもそこそこに扉を開くような無作法者であったならば、早々にアレンの正体が男だと発覚してしまっただろう。

 しかし、ガブリエルはそのような無作法者では無かった。

 一声かけた扉の向こうから、ややあせったイザベラの声がして、しばし扉の前で待つと、あわてて、少し髪を乱し気味のイザベラが顔を見せた。

「イザード様、このたびは同行をお許しいただき、ありがとうございます」

 息があがっているのか、声を上ずらせながら、イライザ(のふりをしているアレン)が言う。

「お二人は、甲板には行かれないのですか?」

「ああっ、今! まさにこれから向かうところでしたの」

 イザベラことイライザが、言い慣れない言い回しでとってつけたような事を言う。

 イライザのふりをしたアレンは、キャビンに残るつもりでいた。夕食には正装しなくてはならない、今のうちに休養し、英気を養いたかったからだ。

 一方イザベラなイライザは、旅行記をあますところなく書く為、出港風景をつぶさに見ておくつもりがあった。

「ああっ、私、ちょっと、人いきれに酔ってしまったようなの、私は少し休んでいるから、イザベラ、どうかイザード様と行ってらして」

 わざとらしく椅子にもたれかかるように座ったアレンが、苦しそうに言うと、ガブリエルが心配そうに言った。

「それはお気の毒に、急ぎ誰か呼んで」

「いいえっ!」

 第三者にキャビンに来てほしくないアレンはかたくなに、休んでいれば大丈夫と、繰り返した。

 やむなく、イライザはガブリエルと共に甲板へ向かう事になった。扉を締める間際、イライザが室内のアレンにむかって、イーーーーーーッ、と、歯を向いたけれど、アレンはそれに舌を出して答え、夕食までのわずかな時間、を、くつろいだ姿で休むことにした。
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