公爵家で催される舞踏会の招待状と殿下からアレクサンドラをエスコートして出席したい旨の書状が届いたのは、衝撃の二日から三週間ほどしてからの事だった。
 最初、そんなに長い間殿下を待たせるのは失礼ではないかという大臣方からの指摘があったが、ルドルフには『アレクサンドラは社交界にデビューしていないため夜会に着て行くドレスの一枚も仕立てていない』という切り札が残されていた。『準備がわるい』という指摘に対しては、『幼い頃より引き籠っていたので修道院に入れるつもりで、ドレスなど普段着しか作っていない』とルドルフは言い逃れ、とりあえずアレクサンドラ用のドレスを仕立てる時間の猶予を貰ったのだった。
 事実、ジャスティーヌが一人二役するからと言い、殿下と出かけるのにドレスを使いまわすわけにもいかない。そのため、嘘ではなく、殿下にエスコートされても恥ずかしくない装いをするためにドレスを新調することが必要だったのだ。
 アーチボルト伯爵家の財政難を心配してか、陛下から支度金が届けられ、ジャスティーヌが見たこともないような豪華なドレスが仕立てられることになった。
 アレクサンドラ用には、露出を抑え、胸元が開かないホルターネックに七分袖、更に袖先にレースを何段も重ねることにより、事実上手首まで隠れるようにしてしっかり肌を覆った。更に、揃いの帽子型の髪飾りからはドレスの袖に使われているのと同じ上質のレースが顔にかかるようになっており、アレクサンドラの顔が直接見えないようになっている。
 袖を通してみると、いつもの夜会用のドレスよりもずっしりと重く感じるのは、布地が高級になり、厚くなっているだけでなく、布に宝石が縫い付けられてるせいでもある。また、実際にアレクサンドラの方がジャスティーヌよりも少し背が高いことに合わせるため、アレクサンドラの時の方がジャスティーヌの時よりも高いヒールの靴を履くようにしている。いつもより高いヒールを掃くことに不安を訴えるジャスティーヌに、アレクサンドラ曰わく、「その方が引きこもっていた令嬢らしく不慣れさが傍目にもわかるし、履き慣れない分ジャスティーヌの身のこなしが荒くなる」とのことだった。
 華やかさよりも、大人しさと奥ゆかしさ、保守性を前面に打ち出したアレクサンドラのドレスを身にまとったジャスティーヌは、令嬢というよりも、伯爵夫人と言った雰囲気だった。
「では、アレクサンドラ、今宵は僕がエスコートさせていただきます」
 そう言ってアレクシスもといアレクサンドラが腕を出し、アレクサンドラジャスティーヌならぬジャスティーヌがその腕に白い絹の手袋で覆われた手をのせた。
 その様子に、ルドルフが咳ばらいをした。
「アレクシス、くれぐれも間違えないように。今日、アレクサンドラのエスコートをするのはロベルト殿下であることを。くれぐれも粗相のないように」
 父の言葉を聞きながら、ジャスティーヌは失敗したらどうしようと、不安になる気持ちを抑えきれず、しっかりとアレクサンドラの腕を握った。
 やがて、六頭立ての馬車の車輪が門からの石畳を通る音が響き、ロベルト殿下が迎えに来たことが家令によって伝えられる。
 ジャスティーヌは震えそうになる体で必死に一歩ずつ歩を進めた。

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