春雷
******


楽しい時間は、なぜこんなにも早く過ぎるんだろう。
それは小さい頃からの疑問。

私は今、この歳でさえ、そう感じる。
だけど、それ程楽しいことがこの歳でも
あるのは、とても幸せなのだと思う。

今日の私は、このメンバーで、レッドイーグルに会えて、本当に嬉しかった。



帰宅に向かう人の波に揉まれながら、口々にライブの感想を仲間と伝えあっている声があちこちで聞こえる。

例に漏れず、私たちも、そうだった。

彼、一人を除いて。



「ライブ良かったねーっ!
あたし絶対目がジャスティンと合った気がする!」

「うん!うん!ほんとに今回良い席だったしね!目が合ったよ!絶対」


「あのボールは僕に投げてくれたはずなのに」

「あー、まだ言ってるわ。先生、
よっぽどサインボール欲しかったんだね‥」

「だって、リンは僕と目が合いました。絶対に
僕に投げてくれました」

高村先生は
ずっと、悔しそうにぶつぶつと言っている。


「まあまあ、先生くらい背が高くても取れないなら、それはそれで、平等なんですよ」

「そうだよ!センセっ!
その代わり、銀テープ沢山取ってくれたじゃないですか!
さ、お腹すいたし
琴葉さん、なんか食べて帰ろうー!」
しょんぼりとする高村先生をなだめ、
ラーメンを三人で食べた。

マンションに彼を送り届け、
背を丸めてどんよりと帰宅する彼を見届けて
楽しかった1日が終わろうとしていた。


「由乃ちゃん、お風呂上がったよー。お次どうぞー」

「あー。はーい」

由乃ちゃんは、自室で、高村先生がたくさん取ってくれた、銀テープをながめていた。

メンバーそれぞれのメッセージが書いてあるのだ。

「どう?四人全員のメッセージ、あった?」

私は髪を拭きながら銀テープを眺めた。

「うーん、リン君のがない」

「あ、私も二枚持ってるから待ってて」

「あ、それでさあ、ちょっとこれ見て!」

由乃ちゃんは、銀テープの一枚を手に取り、
一部分を指差した。

銀テープには、QRコードが、ついていた。

「これ、なあに?」

「これ、今回のサプライズイベントなんだって!!!ちょっと調べてみようかなって、今思ってたの」

< 44 / 110 >

この作品をシェア

pagetop