略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
お初にお目にかかります、婚約者様

*


「今日午後から大口の契約に行くんですが、どちらか同行してくれませんか?」


 年の瀬迫り来る12月最終週の成京銀行信託課。

 追い込みとばかりに佐藤代理が鼻息を荒くして言ってきた。

 相手方での契約となると、コンプライアンス的に同行者は必須なのだが、誰もが走り回る年末の時期に他の営業担当では難しい。

 美郷も理子も回ってくる書類に追われて手が空いているわけではないけれど、この時期に借り出されるのは致し方ないことだ。


「私、行きます」

「あ、先輩、あたし行ってきますよ」


 互いに忙しいことを承知で、相手に気を使って手を挙げる。


「一応結城部長のお客様だから、部長にも一緒に来てもらうことにはなってるんだけど」

「そういうことなら、先輩お願いします」

「えっ」


 匠海の名前が出された途端、理子はあっさり身を引いた。

 もしかしたら年明けまでもう会えないかもしれないと思っていたから、正直嬉しいのだけれど。


「それなら乙成さん、お願いしますね。契約の書類と一応カウンターも用意お願い」

「は、はい、わかりました」


 会社から支給されていたあまり使わないビジネスバッグに必要書類を詰め込みながら隣からの視線に顔を上げると、理子がニヤニヤと目を細めて美郷を見ていた。
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