覚悟はいいですか

「紫織、 Je t’aime plus que tout.
(ジュ テ-ム プリュス ク トゥ-.)」
『何よりも君を愛している』

ーーそれは最上級の愛の言葉のひとつで

学生の時に一緒に受けたフランス語の授業。こんな愛情表現の例文が教科書にいくつも載っていて、赤面しながらも、しっかり頭に刻み込んでいた
『結婚する気のない相手には言っちゃいかんぞ』って先生が言っていたっけ

重ねられていく礼の言葉に、ますます嬉しさが込み上げて喉をふさぎ、思いは涙腺を通って溢れ、とどまることがない
私も想いを伝えたいのに、嗚咽が止まらなくて息を吸うのがやっとで…

ああ、好きになってもいいんだと心が認めた途端、堂嶋への恐怖で固めていた鎧が粉々に砕け散り、その欠片が涙と一緒になって次々に流れていく

今日一日で、一生分の感情の上昇と下降を繰り返した気がする
トドメは礼からの愛の告白と絶対的な安心感でーーー

そう、私がずっと望んで得られなかったものを、礼は全部、無尽蔵に、次から次へと湧く温泉のように与えてくれた

ありがとう、礼
あなたは心の傷をそっと塞いで、私に安らぎを与えてくれた
あなたの言葉で私はホントの私を取り戻せた

せめて感謝の言葉を伝えたくて、顔をあげるけど、そこで力尽きてしまって

『ありがとう』

唇は動いたけど、声に出せないまま

私は温かい幸せの泉の中へ、ゆっくりと墜ちていったーーー
< 125 / 215 >

この作品をシェア

pagetop