覚悟はいいですか
「し~お、どうした?」

あ、これは……

ふざけた口調なのに、声の調子からすごく気遣われているのがわかった。その声で、礼は今どんな顔をしているのか、それすらわかってしまう

私たちはそれだけの時間を一緒にいたから

きっと困ったように眉尻を下げながら、口元に笑みを浮かべて、首を大げさに傾けて返事を待ってる

しかたない、これ以上の沈黙は拒絶となって彼を傷つけてしまうかもしれない

小さく息を吸って、私は思い切って顔を上げた

想像通りの角度と表情の20歳の彼が、目の前の男性と二重にぶれる

えっと思うまもなく、2つの影がひとつに馴染み、

記憶のなかの礼よりも男らしく大人の艶を帯びた

でもやっぱり懐かしい笑顔になった

彼のしぐさはあまりに想像通りで、思わず吹き出してしまった

緊張がほんの少し緩み、声が出た

「……久しぶり、礼」

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