覚悟はいいですか
「うん、8年振り?元気だった?」
私の持つカゴに彼が手を伸ばす
私はありがとうと会釈を返してかごを預け、片手でペンションを示し歩き出す
半歩遅れて礼もついてきて、そのまま隣にならんで歩いた
彼は黒のスキニージーンズに同じく黒のVネックのTシャツを着て、涼しそうな麻のジャケットをはおっている
髪は少し伸びていて、軽くワックスをつけ、ラフに流していた
ただ少し気になることが……思い過ごしならいいんだけど、たぶん間違いない
「おかげさまで。礼の方こそ忙しいんじゃない?」
「?」
「少し顔色が悪いわ、疲れてる?」
「……空港から直接来たからね、時差もあって少し寝不足かな。でも大したことないよ」
やっぱり。礼はもとから肌が白いせいか、疲れてくると青白くみえる
しっかり休んだ方がいいレベルだと思う
でも礼がいるとわかれば周りがほっておかないだろう
礼を見つめながら、あれこれ考えていると、逆に聞かれてしまった
「紫織こそ、目の周り赤いよ。もしかして泣いてた?」
オットー、やばい!ここは……あれだ!
「実はさっきまで大量の玉ねぎと戦ってたの。うっかりゴーグル忘れてきたからもう痛いのなんの。当分玉ねぎは見たくないわ」
「ゴーグル?そんなのいつもしてるの?」
「たくさん切るときわね。海女さんがするようなおっきいやつよ、わかる?」
両手でゴーグルを作り、顔に当ててみせると、礼の視線が私の顔と頭の上を二度ほど往復した
と、視線を上に止めてプッと吹き出す
すぐに握りこぶしで口を塞ぎ、しばらく唇をフルフルしていたが、ついに耐えきれなくなって盛大にふきだし、体を九の字に折って笑い出した