冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
抱擁と破かれたドレス
「じゃあ、フィラーナの方から調査打ち切りを申し出たの?」

 窓からの風が白い繊細なレースのカーテンを優しく揺らす中、フィラーナと向かい合う形でソファに腰を下ろした黒髪の令嬢が、目を丸くして尋ねた。

「ええ、だってそれ以上の追跡は意味がないもの。ルイーズ、あなただってそう思うでしょ?」

 フィラーナは諭すように穏やかな笑みを浮かべて、メリッサの淹れてくれた紅茶のカップに口をつける。

 廊下の異物遺棄事件から五日が経過した。午前中にレドリーの訪問があり、フィラーナは事件の現時点での調査結果の報告を受けた。

 事件後、ひとりの衛兵と下働きの女が行方をくらませていたことがわかり、すぐにふたりを追ったが、逃亡は実に用意周到に行われたらしく、すぐに消息がわからなくなったという。

 それを聞いたフィラーナは即決で調査の打ち切りを申し出て、レドリーを驚かせたが、『ではそのように計らいます』と彼は静かに部屋をあとにした。

(きっと夜中に“真の依頼者”の手引きで侵入して、ばらまいた時点で警備の目を掻い潜って暗いうちに城を出たのよ。朝方騒ぎが発覚した時にはもうかなり遠くへ行ってしまってるわ)

 これ以上は捜索隊の労力の無駄であると判断したのだ。それに、たかがいたずら程度のことでそこまでしてもらうとなると、逆にフィラーナの方が萎縮して居たたまれなくなる。

「そう……それじゃあ、フィラーナの気持ちも落ち着いたのね。安心したわ」

 ルイーズも微笑んで、目の前のテーブルに置かれたカップに手を伸ばした。
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