冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 フィラーナが即答できず困っていると、レドリーは穏やかな笑みを浮かべて立ち上がった。

「長居してしまい、申し訳ございませんでした。そろそろお暇いたします。ゆっくり考えていただいて結構です」

 深々と頭を下げると、レドリーは扉へ向かい歩を進める。

 フィラーナは去っていくレドリーの背中に呼びかけた。

「あの、レドリー様……」

「はい、何でしょう」

 レドリーが歩みを止めて振り向く。

「私なんかが殿下の“休息の場”になり得るのでしょうか? だって私、殿下によく『跳ねっ返り女』とか『お転婆』とか言われるんですけど……。癒しなら、もっと落ち着いた女性の方が……」

 真面目な顔で尋ねるフィラーナを見て、レドリーは柔らかい笑みをこぼす。

「ご心配なさらず。それは殿下のフィラーナ様への愛情表現ですよ。不器用な方なので言い方に歪みが生じるのです。フィラーナ様の帰郷については先延ばしにしていただけるよう殿下に進言しておきます」

 レドリーは再び丁寧に一礼すると、退室していった。
 
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