フィアンセは恋わずらい中
あんことハニー
――5日後の朝は、すっきりとした秋の空が心地いい。
昨日まで、クロワッサンや塩パン、レーズンパン、チョコ包みパンなど、朝比奈が好みそうな味を想像しながら、連日差し入れた。
もちろん許可は取っておらず、総合受付から秘書の福嶋を呼び出し、何度も頭を下げて特別に渡してもらっている。
当然、朝比奈からの感想などはないし、期待もしていない。
諦めたわけではないけれど、美味しかったなんて優しい言葉をもらったら、数日後の諦めが悪くなる。
それでも、紗夜はひたすらパンを焼き、毎夜店を閉めてから、ふたり分のパンを差し入れ続けた。
最初は、福嶋も困惑していたけれど、昨日はとてもにこやかに対応してくれたのを覚えている。
少なくとも、彼女には嫌われていないようだと、紗夜はなんとなく感じ取っていた。
それに、新作を考案したので、客の反応が楽しみでもある。
もしかしたら、数日後には店を畳まなくてはいけなくなるかもしれないけれど、それでも1人でも多くの人の〝幸せなひととき〟のお手伝いができていたらと願った。