夏が残したテラス……
テラスで……
リゾートホテルの倒産。そんな、情報が耳に入ったのは、今年も終わりに近づいている頃だった。

 この時期の、リゾートホテルの影響はそれほどないが、来年の夏の事を考えると気が重い。さすがに、私にだってそれぐらいは分かる。

 だが、パパはリゾートホテルの話は一切口にしなかった。


 テラスに立ち、冬の海に佇む大きなホテルを見つめる。年末年始の宿泊を最後に、ホテルは閉鎖された。
 もっと、活気が無くなりお化け屋敷のようになってしまうのかと思っていたが、後処理なのか? ホテルの窓からは光りが漏れている。確かに、営業していた時の賑わいは無いものの、人の気配はあった。
それも、数週間だと思っていたのだが、ホテルから人気が無くなる事は無かった。


 海とホテルを見つめながら、温かいコーヒカップを手に、海里さんの事を考える。年が明けても、海里さんは忙しいみたいで、夜時々顔を出すくらいだ。その度に、温かいスープと軽い食事を作る。他愛も無い話に笑って時を過ごす。

甘い言葉もキスも、あの嵐の夜から一度もない。
まあ、店にはパパがいつも居るから仕方がないが……


海里さんの事も、ホテルの事も気にならないと言えば嘘になるが、不思議と不安は無かった。
海里さんが「俺を信じろ」と言ってくれた。だから大丈夫だと思えた。今は、待つ時なのだろう、きっと、私に何か出来る時がくれば言ってくるはずだ。


 海からの風は冷たい。


 冷たい風を頬にうけ、そろそろ店に入ろうかと向きを変えようとした時、冷たい風が遮られた。
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