私は強くない
プライド
名取課長達が、泊まってくれた次の日、私は誰よりも早くに目が覚めた。

よく寝た。
昨日あんな事があったから、誰かが側にいてくれる事の有り難さを身に沁みていた。

横で眠る美波の、ずれた布団をかけ直し、リビングに。
リビングには、名取課長と金谷君が床で2人雑魚寝していた。
大きな男の人2人には窮屈だっただろう。そう思いながら、2人のタオルケットをかけ直そうとして、手首を掴まれた。

「おはよう」

「っ、名取課長。おはようございます。昨日はすみませんでした。こんな所で寝かせてしまって…」

「いいんだよ、それは。大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」

2人の間に、いつもの空気が流れ、名取課長が掴んでいた手が手首から離れ、私の頬に手がかかった。

「う、うっん…」

金谷君の寝返りにびっくりして、名取課長が手を引っ込めた。

「朝ご飯作りますね」

微妙な空気になり、その場から立ち上がろうとした。

「俺も手伝うよ」

「そんな、名取課長はゆっくりしてて下さい」

「目が覚めたからいいんだよ。あんまりここでゴチャゴチャ言ってると、金谷も起きてしまうだろ?」

「じゃ、コーヒーの用意してもらってもいいですか?」

「分かった」

あ、そうだ。

「金谷君、金谷君」

寝ている金谷君に声をかけた。

「な、なんですか?」

まだ眠そうな金谷君に

「よかったら、ベッドで寝て?まだ美波寝てるから。少しでもベッドで寝たら体、楽でしょ?その間にご飯作っておくから」

「いいんですか?本気にしますよ?」

「どうぞ」

「じゃ、お言葉に甘えて、ちょっと寝てきます」

そう言いながら、金谷君は寝室に行った。
一言余計な事を付け加えて。

「あいつ、な、何考えてんだ」

「言われちゃいましたね。『当分寝てますから、安心して下さい』って」

「なんの安心なんだよな…」

「さあ?」

そうは、言っても、美波にも金谷君にも、バレてしまってるみたい。

私の気持ちが本物なのか、名取課長がどう思ってるのか、まだ分からない。でも、芽生えた気持ちは確実な物、それだけは分かっている。
ゆっくり、考えていこう。

「あいつら、起きてくるの昼だな」

「え?あ、そうですね。それこそ、邪魔しちゃ、悪いですね。私達だけで朝ご飯食べますか?名取課長の入れてくれたコーヒー冷めちゃうし。後で買物に行ってくるんで、お昼ご飯を4人で食べましょうか?」

「そうだな」

そう言って2人で、朝ご飯を食べた。
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