ハイド・アンド・シーク
朝と昼で変わる


控えめなボリュームのピアノの旋律が耳に気持ちいい。
お客さんの少ない駅前の大手チェーンのカフェで、ホットのカフェラテを飲んでいる。

昨日の夜は早く寝てしまったから、今朝いつもよりも早く起きてしまった。
通勤電車を時間が早いものに変えて乗ってきたから、ちょっとだけお茶をして出社しようと思ったのだ。


早起きすると、こうやって優雅な時間を過ごせるんだな。
いつもバタバタと準備して電車に駆け込んでいたから、早起きって本当に三文の徳なんじゃないかな。

作りたてのカフェラテは、苦いエスプレッソにほんのり甘いミルクと砂糖の味。軽めの朝ご飯のあとに、こうやってゆっくりお茶するのって頭もスッキリするからいいかも。
一週間に一回くらいはこういう機会を設けよう。


大きめのグレージュのバッグは少し前に百貨店で購入したばかりだけど、欲しかったアイボリーが売り切れで色に納得していない。

そのバッグから、今度のコンペで使う資料を取り出す。
分厚いそれは、ひと通り読むだけでもかなりの時間を要した。
勤続四年やそこらの私には簡単に理解できない難しい用語が羅列され、その意味をひとつひとつ明かしていったらたぶん、あっという間に月末になってしまいそうだった。

何年勤めたらこういうのが全部理解できるようになるのだろうか。

仕事の合間だけじゃなく家でも読み込んでいても、とてもじゃないけど覚え切れない。
こんな状態で当日、関係者を案内できるか心配になる。


資料の最後のページに、プロジェクトチームのメンバーの名前がずらっと一覧になっていた。
「営業課企画部 主任 有沢樹」という文字を、そっと人差し指でなぞる。
今日はどんなネクタイで来るかな。ワイシャツの色はどんなだろう。革靴は、ブラックかな。それともダークブラウン?

彼のことを遠くから見つめすぎて、ほぼストーカーみたいに彼の身につけているものを把握している私。なんか、これが第三者なら私はきっと相当ヤバいやつだ。

< 13 / 117 >

この作品をシェア

pagetop