大事にされたいのは君

君の本心に触れる



…間違いだった。

なんとなく、それも良いかもしれないと思ってしまった自分が居て、だから少し考えさせて、なんていう答えがするりと口から出てしまって…あぁ…無理だと即答しなかった自分が悔やまれる…

「あ、おはよう由梨ちゃん!」

私のような朝から用のない生徒が登校する時間帯。バッチリ朝練終わりでまだテニスウェアを着たままの朋花ちゃんが、パタパタと片付けに忙しそうにしながらも笑顔で挨拶をしてくれた。
毎朝何時に来ているんだろう。この後部室で着替えて身なりを整えてから来る為、いつもどんなに早く学校に着いていても彼女が教室に入るのは遅刻ギリギリの時間になってしまうのだ。

「おはよう。始まるまであと20分あるよ」

「20分ね、了解!ダッシュでやります!」

「また後でねー」と、お互いニコニコ手を振った所で、ポンっと急に肩に手を置かれた。

「よーしおかさん!」

そして覗き込むように横から顔を出した彼もまたニコニコと笑顔を浮かべていて…今日も朝から元気そうだ。

「長濱と仲良くしてる時の吉岡さんって嬉しそう」

「そりゃあ友達だし」

「嬉しそうで良いけど、なんか納得いかない」

「なんだそれ」

挨拶も無しにまず第一声がそれなのかと、呆れた心の声がそのまま出てしまったけれど、私は心情を隠すつもりはない。彼ーー瀬良君にはもう、ゲンナリしている。ウンザリでもある。

私が即答出来なかったあの日。帰って一晩考えてみたけれど、付き合ううんぬんの話じゃないにしても、結局仲良くなった先で急に冷たくされる未来を想像したら無理だと結論付いた。好きになったら嫌われる相手との関係なんて無駄に傷ついて疲れるだけだ、利用して良いなんて言われても結局利用されるのはこちらだった結末が目に見えている。今くらいの挨拶するぐらいでやめておいた方が良い。
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