レフティ
それ以上になりたい関係
それから私たちは、先生おすすめの馬刺しのおいしいお店の前で落ち合った。
「里香~」
手を振る美沙は少し頬が火照っていて、お酒の席にいたであろうことが明白である。
「近藤さん、こんばんは」
「先生!こんばんは!」
小学生のように元気の良い挨拶だ。
「大丈夫だった?中抜けしてきてくれたの?」
もしかしたら例のタカヒコさんとだったのかもしれないと思いつつ、彼女は私の言いたいことがわかったような顔をして、首を横に振った。
「会社の付き合いだから全然大丈夫よ」
寂しそうな横顔に私も悟ったが、たぶん触れない方がいいのだろう。
「あ、きたきた」
先生の言葉で、私たちの間に流れていた微妙な空気は取り払われた。
先生が手を振る先にいた人物は、これがまたオーラがすごい。
顔はよく見えないが、モノトーンでコーディネートされた服装とブロンズのカラーリングがまるで芸能人のようだ。
「え、モデル?」
美沙もまたそう声をあげていた。
「あれで呉服屋だからね」
先生のその一言に、私たちは驚きのあまりぽかんと口を開けた間抜け面で、彼を迎えることになった。
「遅くなってすいません~」
近くで見るとまた一層、目鼻立ちのはっきりした綺麗なお顔。
真っ白な肌にブロンズの髪が、異国情緒を漂わせる風貌であった。
「鎧塚剣士(よろいづか けんし)です、よろしく~」
― 名前までかっこいい。
しかし先生もまた、その鎧塚さんの隣に立ってもまったく見劣りしないルックスなわけで。
まさに美の暴力とも呼べるツーショットに、私と美沙は顔を見合わせた。
「なんかちょっと…もう戻れないね…」
こんな2人を目の前にして、一般的な街コンや合コンでときめくなんて、もはや無理だ。