麻布十番の妖遊戯



 高輪大木戸の大吉といえば俺のこと。
 と侍は得意気に語り出した。

 江戸の東海道口、高輪大木戸辺りを毎日のように駕籠に乗ってあっちへふらふらこっちへふらふら、

 糸の切れた凧のように風の向くまま気の向くままに遊び歩いていた大吉はろくに仕事にもつかず、

 金が無くなれば店の帳場を手伝っていた弟の中吉に無心をし、その金で悪い仲間と朝まで遊び呆ける毎日を送っていた。

 なんせ実家は高輪辺りじゃ知らぬ人はいないというほどの大店だ。金はあって当たり前。

 たとえ江戸の火事で店が燃えたとて、他にもいろいろな店を構えている。

 一つくらいなくなっても痛くも痒くもないのだ。湯水のごとく金は湧き出てくるものだと思っていた。

 そんな大店の長男坊に生まれ、幼き頃からなにかにつけて甘やかしてしまった大吉に両の親も今更ながらに手を焼いていたのである。
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