キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
3-1
グランドエステートの仕事初めは、特にこれ、っていうあらたまった儀礼もなく。店長が、昨年以上に頑張ってくれ、的な普通のことを挨拶して、平常運転で始まった。

営業の社員さんが一人二人と外回りに出かけ、残るのは店長と来客対応担当の当番社員さん、吉井さんとあたしの四人、てカタチもいつも通り。

「志室さん。これ確認、お願いしていい?」

「はい」

吉井さんから手渡された資料は、売買物件情報。ネットに掲載したりするから、その物件が売れてしまってないかを売り主業者あるいは、その物件の窓口になっている不動産業者に電話で確認する作業だ。
物件の対象エリアもけっこう広くて件数も多いし、地名の読み方にも苦労したりする。慣れないうちは噛みまくりで、実は今でも苦手。・・・仕事だから頑張るけど!




夕方5時を過ぎて、出かけてた社員さんが続々と戻り始める。
長期の休み明けってこともあるのか、席に座ってパソコン画面を見やる姿は、全体的に気怠そうだ。
どこかの業者さんとの電話なのか、はきはきした羽鳥さんの声だけが突き抜けて聴こえてる。

そんな中。店舗の自動ドアが鈍い音を立てながら開き、来客担当の社員さんがさっと席から立ち上がって「いらっしゃいませ!」と声だけは威勢よく店頭に向かった。
お正月早々、家を買いたいって人もいるんだなぁ。感心しながら、お茶出しの準備をしようかとあたしも立ち上がる。
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