星空電車、恋電車

流星群



「サークル行事で春の流星群観測会があるからそろそろ準備が始まるよ」と山下さんから聞いたのは先週だった。

山下さんと恵美さん、柴田さんも来月には4年生になる。山下さんは冬からサークルには顔出ししていない。
柴田さんもこの観測会が終わると卒論など諸々忙しくなってサークル活動に参加しなくなるのだとか。

ということは柴田さんに引きずられて参加しているという樹先輩も参加しなくなるだろう。
今後、校内で樹先輩に出会うことはほぼなくなるという事だ。

今まで以上にあの人たちに出会いませんようにと祈りながら構内を歩いていた。

あっ、と気付いた時には目の前にいた。

今夜も合コンだというユキと別れてレポート課題に必要な資料を探しに大学内の図書館に行こうと角を曲がったところで運悪く出会ってしまったのだ。

思わず舌打ちしそうになっていた。
くるくると巻かれたポスターを数枚持った柴田さんを中心に今日もまたたくさんの紙袋を持たされている樹先輩と数人の男子学生の姿。
一見するとやり手の女社長と若い男性社員たちって感じに見えなくもない。もしくは女帝とその取り巻きたち。


「あら、チナちゃんじゃない。久しぶりね」

「はい。こんにちは・・・」

私に気が付いて親し気に声をかけてきた柴田さんに小さな声で返事をする。
そういえば柴田さんは私の名前を”チナ”だと思ってるんだっけ。

「ね、よかったら今度の観測会に参加しない?これ今度のチラシなの。今からその辺で配るつもりだからチナちゃんも1枚もらって」

柴田さんが隣にいた樹先輩の持つ紙袋に手を突っ込み1枚取り出すと悪意のなさそうな笑顔で私に差し出してくるから仕方なく受け取る。

顔を上げたその一瞬、こちらを見ていた樹先輩と目が合ってしまった。
直ぐに逸らしたから樹先輩がどんな表情をしたかわからないけれど、息が止まりそうになる。
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