星空電車、恋電車
エピローグ

それから2年後


「こんなことってある?」

私が目を丸くしていると、隣に立つ樹も驚いた様子でホームに滑り込んでくるその車体を見つめていた。


6年振りに見る『恋電車』

懐かしいあの桜色の車体が故郷に結婚の報告に来た私たちを迎えてくれたのだった。




私は27才、樹は28才になった。

知り合って12年、再会し程なくして私たちは婚約をした。
それから結婚を前提に国をまたいだ超遠距離恋愛ながら順調にお付き合いをして2年。先月末に無事に入籍を済ませていた。

今日は高校の陸上部の後輩のインターハイ壮行会に合わせて行われるOB・OG会に二人で参加しみんなに結婚の報告をするためにこの地に来たのだ。

地元に戻って中学教師をしている京平先輩には事前に連絡してある。彼もこの壮行会に出席するはずだ。

私たちと京平先輩の間にあったわだかまりは2年前に既に溶けている。
樹と京平先輩は拳で、私と京平先輩は口と胃袋で熱く語り合い和解に至った。

いろいろ思うところはあったもののお互いこのまま友人関係を消滅させるという選択はなかったし。
現在、京平先輩には可愛い年下の彼女がいて今のところうまくいっているようだ。
今回京平先輩への手土産は松濱屋の超お得意様限定スイーツ『イカ墨とミックスベリーのゼリー』。事前に叔父に頼んで調達したもので私はまだ味見していない。



恋電車に乗り込み改めて車両の中を眺める。
あの頃と違うのは恋みくじの自販機の隣に恋愛運上昇のグッズが入ったガチャが置いてあることだろうか。

「6年前にこれに乗った時は複雑な心境だったけど、こうして見ると素敵なサプライズなのよね」

以前と変わらず今も時刻表は公開されておらず、いつ走っているのか鉄オタも予測するのが大変らしい。
2日連続で走行することもあれば2ヶ月も姿を見ないことも珍しくないのだとか。

電車到着を知らせるホームのメロディーも特別なものだし、車体の桜色ベースの塗装もとても綺麗だ。
気分が最悪だったあの時は心の中で大ブーイングしていたのだからずいぶん自分勝手な話なんだけど。
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