星空電車、恋電車
気が付いた時には私の頬から背中に樹先輩の両手が回されていて、しっかりと抱きしめられていた。

「嫌なら振り払って」

私の肩口に顔を埋めるようにしながらがっちりと抱きしめる樹先輩。
この人の腕の中に飛び込みたいと何度思ったことだろう。
そんな私が振り払うはずがない。

それに樹先輩はスリムに見えてもインハイ経験者の元アスリート。本気でやっても私の力で振りほどけるわけもないし、ここまでして樹先輩も振り払われるつもりはないと思うけど。

返事の代わりに私も彼の背中に手を回してぎゅっと力を込める。

私も彼の隣にいたい。
ずっとずっとずっと会いたかったし甘えたかった。

「ちー」
私を呼ぶ声にこみ上げてくる想いが涙に変わり溢れてきそうで返事もできずこくこくと頷いて応える。

「会えない間、ちーが結婚していたらどうしようって本気で心配してた。4年前に結婚していてもいいから帰国したら会ってくれなんて俺の気持ちを隠して強がったけど、今回京平にちーが独身でいるって聞いて死ぬほど嬉しかったよ。ちーに恋人がいたら、結婚してたらどうやってソイツからちーを奪おうっかって考えなくてよくなったし、電話したら会ってくれるって言ってくれたし、ホントに安心した」


私を抱きしめる樹先輩の身体に力が入って更に密着する。それはもう、ぴったりと。
付き合っていた頃だってこんなに近付いたことなんてない。
首筋に、耳に、肩に吐息がかかり、頬に胸にお腹に背中に彼の体温を感じる。

「・・・先輩、私はドキドキし過ぎていま死にそうです」

全身が沸騰したように熱い。
心臓の鼓動が大きすぎて上半身が全部心臓になったんじゃないだろうかと思うほどのドキドキ。
インターハイのスタートラインに立ったときよりも緊張して動悸がする。

立っているのも辛くなり、くたりと樹先輩に体重をかけたことで慌てた樹先輩が近くのベンチに座らせてくれた。

ーーーすみません、男性に免疫なくって。
樹先輩が私の人生唯一の彼氏だったのでーーー


隣で心配そうにしている樹先輩
< 166 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop