星空電車、恋電車
「オレ、怪しいものじゃないから。ここの工学部の学生で今3年生。先輩や同級生に”お前イケメンだからちょっと勧誘して来い”って言われたんだけど、俺が勧誘すると、半分以上の子がキミみたいにちょっと引いた顔するんだよね」

アイドルもどきさんが困った顔をしながら私の背後に向かって「おーい柴田ぁ」と声をかけた。

「あ、勧誘できそうなのー?」

澄んだ高音ボイスがして私が振り返ると、洗練された美人さんがこちらに駆け寄ってきた。

「どうにも俺が勧誘すると警戒されるみたいなんだ」

アイドルもどきさんが困り顔で頭をポリっと掻くと美人さんが綺麗なお顔であははっと予想よりも豪快に笑いだした。

「あー、そのパターンもあるよねー」

彼がイケメンアイドルならこちらは美人女子アナか美人お天気キャスターか。
くるくると綺麗に巻かれた髪に小さなお顔。バランスよく配置された顔のパーツと出っ張りすぎてない嫌味のないスタイル。

「こんな中途半端なイケメンに勧誘されて不安になっちゃったかもしれないけど、うちは健全なサークルだから心配しないで。どっかの合コンサークルとかと違って真面目に語り合えるし、楽しくもあるし。間違っても怪しい所じゃないからね」

パチンっと音が出そうなウインクをして美女が私に笑いかけてきた。

私はというと、アイドルもどきさんのことは忘れこの”柴田”と呼ばれた綺麗な女子に目が釘付けになり棒立ちになっていた。

この人、どことなくあの子に似てる気がする。

桜花さんの顔のパーツや配置と似ている。この人の方がパーツの一つ一つがはっきりとしていてすっきりとしてるけれど。

二度しか見ていない彼女だけれど、私の目にはしっかりと刻み込まれていた。
樹先輩を”いっくん”と呼び、樹先輩と手を繋ぐ彼女の顔を。

このサークルに入ったら私はこの人を見る度に桜花さんを思い浮かべてしまうのだろう。
そうして思い出しては自分の傷を深くしていくのだ。

私に自虐趣味はない。そんなのはごめんだ。
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