恋を忘れたバレンタイン
「美優さん、相変わらず綺麗な肌ね。白いし柔らかい……」

 マッサージをする手を休める事なく褒め言葉を並べる。お世辞と分かっていても悪い気はしない。


「そんな事ないですよ。年齢重ねる事の肌の衰えは正直に出ますよ」


「あら、美優さん美人だし、お手入れだってちゃんとやってるもの大丈夫よ。それより、肩と首が凝ってるわね。しっかりほぐしておくわ。仕事無理し過ぎてるんじゃないの?」

 首に回って手に力が入り、痛気持ちいい……


「仕方ないですよ。プレッシャーばっかり伸し掛かってきて。若い子達も育てなきゃならないし……」


「そうね…… 美優さんなんでも出来ちゃいそうだから任されちゃうのよね。でも、バレンタインのチョコくらい上げる人いるでしょ?」

 多分さっき買った義理チョコの紙袋の事を見て言っているんだろう?


「まさか…… この年で、バレンタインに本命チョコなんて気持ち悪いし、みんなドン引きしますよ。立場上の義理チョコですよ」

 体中が、ほぐれて行く気持ちいい感覚の中で答える。


「そうかしら? こんな美人から貰ったら、男はみんな嬉しいんじゃない? 意外にみんな期待しているかもよ?」


「あははっ。あり得ないですよ。若い男の子達なんて、みんな私の事怖がってますよ。数年前までは、もう少し可愛げあったと思うんだけどな。それでも、皆、私との結婚は重いって言うんですよね」


「ああ…… そりゃ男のレベルが低いわ。美優さんに向き合う自信がないのよ。」


「そうなんですかね?」


「それに、美優さんも、相手に自分をちゃんと見せてないわよね。って、いうか見せられる相手と、まだ出逢って無い感じがするわ。時には甘える事も大事よ」


「ふう―。そうだとしたら、一生出会えそうにないです」


「またまたぁ。義理チョコが本命に変わる事だってあるかもよ。ようは、気持なんだから」


 mikaさんは、そんな事を言ってくれたが、私には関係のない話だと思い笑い飛ばした。
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