恋を忘れたバレンタイン
外に出ると、冷たい風に体が縮こまる。コートのポケットに手を入れ、駅への道を急いだ。

 駅に入ると、バレンタインの派手なハートの飾りが広がる。足を踏み入れたいわけじゃないが、義理用に配るチョコぐらいは買っておかなきゃならないと思い、だいぶ棚に隙間の出来始めた店の中を覗く。

 いかにも配り用のチョコといった大袋を手にするが、主任という立場上あまり安い物というのもケチだと思われるだけだ。同じ大袋でも、ブランド物の倍以上する値段のチョコに手を掛ける。まあ、どうせもらうなら、おいしいチョコの方が貰っていくらかは有難いだろう。

 それに、余ったのを自分で食べる時だって美味しいほうがいい。私は、ブランド物のチョコを手にレジへと向かった。

 可愛い紙袋に入れれられて、なんだか恥ずかしいが仕方ない。


 そのままチョコの入った紙袋を手にし、自分のマンションより一駅手前で降りる。

 エステの予約をしてあったからだ。別にバレンタインの前の日だからと言う訳では勿論ない。ただの偶然だ。

 エステと言っても、アパートの一室を改良してやっている、あまり知られない穴場だ。夜遅くでも予約できるし、mikaさんと言う三十代後半の女性が一人でやってる店で、丁寧なマッサージの上、気楽に過ごせるところが気に入っている。


 店のインターホンを押すとドアが開き、やんわりした笑顔のmikaさんと同時にふわりといい匂いがする。

 ほっと、癒されながら指示されたベッドに準備を始めた。


 さっすがにこの時期は、肌もカサカサに乾燥している。
 でも、mikaさんは、やわらかい声で言う。
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