魔法の鍵と隻眼の姫

二人旅再び

・・・・

ミレイア…ミレイア…

優しく呼びかけられ差し伸べられた誰かの手を取ると、その手は熱く自分の手を温め、まるで心まで温かくなるような気がした。
微笑みその手をぎゅっと握ると引っ張られるように体が浮かんだ。

「ん…」

意識が浮上する。

「……い、おい小娘起きろ」

ぱちくりと開けた目の前にラミンがいて硬直した。

「起きたか?病み上がりで悪いかそろそろ日が昇る。出立するぞ」

「あ、え?お兄さまは?」

苦しみ意識が朦朧としてる中でもあの優しい兄のセイラスが受け止めてくれていたのは気付いていた。
起き上がり辺りを見回し懐かしい香りがまだ鼻先をくすぐるが姿が見えない。

「あいつ等ならとうに帰った。また今日から二人だ。一座のやつらに見つかる前に行くぞ」

「そう…」

モリスデンもセイラスも来ていたのに挨拶もせずに行ってしまって寂しく思う。
苦しむミレイアを助けてくれたのだお礼だけでも言いたかった。

パタパタと支度をすると外に出たラミン達はテントの合間を縫って馬が繋がれてる木まで歩いた。
早朝とは言えシーンと静まりかえっているのを不思議に思うミレイア。

「朝日が昇るまでジジイに眠らされてる。今のうちに行くぞ」

そう言ってウォルナーの元へ着くと頼むぞと首を撫でたラミンが振り返り後ろにいたミレイアを抱き上げた。

「え?ラミン何してるの?フィーダはどこ?」

姿の見当たらないフィーダを探しキョロキョロと辺りを見回す間にウォルナーに乗せられた。
その後ろに颯爽と乗ったラミンが手綱を持ち片手でミレイアの腰を引き寄せた。

「フィーダはジジイに連れ帰ってもらった」

「え?どうして」

驚き振り向いたミレイア。
ラミンはミレイアをちらりと見た後、前を向きウォルナーをゆっくり走らせた。

「もうあまり時間がない、少しでも身軽な方がいい。隙を作るとまた余計な判断しそうだしな……」

「ん?」

何を言ってるのか分からないミレイアは首を傾げる。

「この方がお前を守りやすいって事だ。走るぞ!」

アマンダの事を反省しているラミンは誤魔化すように有無も言わさずウォルナーの腹を蹴り駆け出した。
久々に感じる背中の温もりに安心感が包み込みミレイアはそれ以上聞くことを忘れ背中を預けた。

シエラ王国に行くには戻らないといけない。来た道を戻るより危険だが山を越えた方が早いと街道を逸れ山道を登る。
国境付近に差し掛かるとハウライト共和国の惨状が遠目に見えた。
見晴らしのいい岩場に着くとミレイアはウォルナーから降りひざまづいた。

どうか安らかな眠りを…残された人々の安寧を…

手を組み一心に祈るミレイアを後ろで見ていたラミンは遠くのハウライト共和国を見る。
これ以上無駄な争いが続かないようにするには一刻も早く目的を果たさないといけない。
あらためて気を引き締めたラミンはミレイアの横に立ち静かに黙礼した。
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