恋は小説よりも奇なり
Episode.7 将来と気持ち
『……すまない。すこしだけ……』
あの日から奏の声が耳に残って離れない。
思い出すだけで満の心臓はキューっと締め付けられる。
気の利いたことが何も言えなかった。
ただ、子どもみたいに感情のまま泣くばかりで。
奏の周りにいる大人たちなら彼が求める答えを知っていたのかもしれない。
満は自分の未熟さを痛感した。
「瀬戸さん、本がバラバラですよ」
大学図書館司書の寺本 梓(てらもと あずさ)が本棚の書物を正しく置き換えながら声をかける。
「うわっ、梓さん!す、すみません。すぐに直しますから……」
素っ頓狂な声を上げた満は目の前の棚を見てさらに仰天した。
本が逆さだったり順番違いだったり酷い有様となっている。
いかに上の空で仕事をしていたかを物語っていた。