そのままの君が好き〜その恋の行方〜
金澤さんとのコンビを解消して、はやひと月が過ぎた。金澤さんは、大手スーパーの本社担当に異動し、俺は、新たに新入社員の三嶋理沙(みしまりさ)と動くようになった。


「もうすぐ着く。着いたら、向こうの担当者に挨拶してから売場作りだ。媒体物を車から下ろすの忘れるなよ。」


「はい。」


ハンドルを握る俺の指示に、三嶋は頷く。今から行く取引先は、一本立ちしたあとは、三嶋が担当する予定。それだけに、今回はあまり口を出さないで、三嶋の動きを見ていようと思う。


三嶋は英仏2カ国語を流暢に操り、秘書検定の資格も持ってる才女で、本人はまさか、こんなラウンダーのような部署に配属されるとは思ってなかったらしい。


それでも、特に腐る様子もなく、俺について、業務に勤しんでる。明るい性格で、取引先の受けもいいし、呑み込みも早い。3ヶ月は俺の下で勉強ということだが、そこまで、時間は必要じゃないかもしれない。


新商品の売場作りが、この日の取引先巡りの目的だったが、テキパキと売場を作り、媒体物の取付も女性らしい几帳面さで、キレイに飾り、こりゃ去年の今頃の自分よりよっぽど出来るぞ、と内心舌を巻いた。


このように、優秀なヤツではあるのだが、問題がないわけではない。


というのも、無類のおしゃべり好き。組み始めた当初こそ、しおらしく、俺の話(もちろん業務上の)を聞いて、おとなしくしていたが、今では、その日の打ち合わせが済めば、あとはもう立て板に水のごとく、いろんな話題を持ち出して来る。


「沖田さんは彼女いないんですか?」


特にコイバナはお好みのようで、業務以外の初めての話題がこれだった。

 
と言って、俺に興味があるわけではなく、俺がいないと答えると、私、学生時代から付き合ってる人がいて・・・と、とうとうと語り出した。


保険会社に勤めてるという、同い年のその彼氏との馴れ初めから、どんなとこが好きだとかの惚気も加わって、三嶋の話は尽きなかった。


当然、自分の話だけではなく、俺にも容赦なく切り込んでくる。正直、過去の恋愛については、あまり語りたくない俺は、適当にあしらうが、今、気になってる人はいないのかとか、追及の手は緩まない。


「今、仕事中だ。いい加減にしろ。」


という一喝が効いたのは、せいぜい2週間。仕事がだんだん呑み込めてからは、移動の車内は、今ではすっかり三嶋のペースだ。
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