過ぎ去りし王国
パン屋の話
大昔は「美しい」と呼ばれたこの王国の街並みは、まるで廃墟のようになってしまっている。

度重なる災害で、何度も家屋は壊れてしまう。しかし、それを直すだけのお金を王は出そうとしない。そもそも、お金すらないのかもしれない。

他国との関わりを禁止されたこの王国は、今では今日を生きることでみんな精一杯なのだ。

街の片隅にある小さなパン屋。パン屋と書いてあるが、今はもうパンは売られていない。不作が続き、小麦がまともに取れないのだ。

このパン屋では仕方なく、自分たちの畑でとれたジャガイモなどを売ってなんとか生活している。

「……ティファニー、天国ではきっと、おいしいパンがたくさん食べられるんだろうね」

パン屋の主人であるダニエルは、カウンターに飾られた女性の写真に語りかける。その女性はダニエルの妻。娘のエリカを産んですぐに病気でこの世を去ってしまった。

残されたダニエルは、男手でエリカを育てた。エリカはもうすぐで十六歳になる。
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