君へのLOVE&HATE
#3
相良和樹・・・姉の婚約者。
さらさらの長めのストレートヘアに黒縁眼鏡が似合う人だった。
優しい落ち着いた口調の人で
耳に心地いい声だった。

和樹くんが私の名前を呼ぶ声が…好きだった。


和樹くんと出会ったのは私が中学三年のとき。
姉と和樹くんが大学四年生。

もともと姉と同じ大学に通っていて
彼氏だと紹介されてからも
何回か自宅に来たことがあって顔は知っていた。

挨拶だけ交わして、それ以上もそれ以下の付き合いもなかった。

その関係が壊れたのは、私の高校受験のため、和樹くんが私の家庭教師をすることになった9月。

もともと塾にも通っていたし、成績さえ落ちなければ県内トップクラスの高校には合格するくらいの余裕はあった。
あえて、家庭教師は必要なかったのだけど、和樹くんが、大学卒業後、中学校の数学教師としてはたらくことになっているから
その練習?みたいな形で、私に教えたいと話があったらしい。

彼女の妹がたまたま中学生で、大学卒業するまでの安いバイトみたいな感覚だったのだろうと思っていた。

苦手な数学に苦戦していたのも事実だったし
お母さんも私が数学が一番できないことも知っていたから

和樹くんの申し出に二つ返事をしたんだと思う。

姉と和樹くんはお付き合いも長くて、両家ともに公認だったから、卒業してしばらくしたら結婚するものだと思われていたし、私もそう思っていた。
姉も、和樹くんのバイト先が家で、会える回数も増えるのだから反対するはずもなかった。
ましてやバイト先が恋人の妹の家庭教師なのだから。

和樹くんはわからないところをわかるように説明してくれるところや、
教え方が、上手で、苦手だった数学の成績も良くなっていった。

家庭教師の時間は
部屋の扉は開けていたし
きっちり1時間教えてくれて
先生と生徒のとして週に一度過ごしていた。

勉強の合間には和樹君の通う大学のことや学部のこと、
和樹くんの趣味のこと、
姉と出かけたときのこと、いろんな話をしてくれた。

好きな本の話をするときは目をキラキラささせて教えてくれること。
最近読んだ本でおすすめのものとか
おもしろいものとか
数学の先生なのに、まるで、真逆の趣味を
とても熱心に、夢中に話する和樹くんに、心を奪われるのは時間がかからなかった。


いつからか、
どちらともなく
顔が近づいて
唇を重ねて

家に誰もいないときは
体も重ねた。

このままの関係が続くなんて思っていなかった。

何度、キスをしても
何回、体を重ねたとしても

和樹くんは姉の恋人という現実にいつも胸が苦しくなった。

和樹くんの家庭教師の日は、姉の顔を見ることができなかった。

和樹くんは私に優しく触れながら
いつも、
私に消えない罪悪感を残していく。

その一方で
姉の目を盗んで二人で秘密が増えることにいつしか、
優越感を感じている自分もいた。

このまま、和樹くんに溺れる自分も怖かった。

いつか
和樹くんとの関係も終わりが来る。

和樹くんが私を選ぶことはないのはわかっている。

終わらせなくちゃいけない。
姉の恋人とこのままじゃいけない。

そう思えば思うほど、和樹くんと家庭教師の時間を増やして会う回数も多くして、その度にお互い求めあっていた。

成績が下がると和樹くんにも迷惑がかかるから
勉強も頑張っていた。

<景都は、きれいで優秀だね>

和樹くんがやさしく頭をなでてキスをしてくれるたび
心が満たされるような気がした。

1月になり、2月が来て

受験も無事終わり
第一希望の高校にも合格して
合格祝いを和樹くんも入れて家族でしていたとき、
姉がこう話しした。

「私と和樹、結婚しようと思うの」

思わず姉と和樹くんの顔を見る。

和樹くんは私を見ることなく、姉を見ていた。

いきなりのことで言葉もでないお父さんとお母さんにお構いなしに
姉はさらに衝撃的な事実を伝えた。

姉と和樹くんは幸せそうに微笑みながら顔を見合わせてこう言った・・。

「実はね、今年の冬に、家族が、増えるの。」

家族が、、、増える?

目の前がグニャと歪んで、
それ以降の和樹くんと、姉の会話が頭に入らなかった。





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