何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「ねえ、何で花火作ってるの?」

天音は、まったく物怖じせずに、彼に話かける事をやめない。
こんな人気にない場所で一人花火を作っている彼の事が、何故かとても気になった。
それは、あの即位式の花火を見たからだろうか。

「あ?なんでもいいだろう。」

男は、天音ともうこれ以上話したくないといわんばかりに、顔を背けた。
しかし、そんな強面でぶっきらぼうな男だったが、天音の問いには、なんだかんだちゃんと答えてくれている所を見ると、そんな悪い人ではなさそうだ。と天音は密かに考えていた。

「月斗さーん。あ、すいませんお話し中でしたか?」

小屋の中から別の男が出てきて、その男を呼んだ。

「いや。」

しかし、男は、顔見知りであるだろうその彼にも、そっけなく答えるだけ。

「え?話してたじゃん!」
「いちいち、うるせー女だなー。」
「あ、、、じゃ、俺先に町に行ってますね。」
「ああ。」

そう言って、彼の仲間?らしき男は、苦笑いを浮かべて、小走りで小屋を後にした。
何故か、彼と一緒にその場を去るという選択をしなかった彼は、未だ不機嫌そうに天音を睨み付けている。

「さっさと帰れよ!」
「えっと…道…わかんない…。」
「は?バカか?」
「方向音痴なんだもん…。あ、町…行くんだよね?」

天音は期待を込めて、視線を決して合わせようとしない彼を、チラリと見た。

「ハー。めんどくせー。」

彼は大きなため息をつき、のそのそと歩き出した。やはり町に行くようだ。そしてチラリと天音の方へと振り向いた。

「え…。」
「俺もう行くけど…。」

ぶっきらぼうにそう言って、彼はまた歩き出した。
それはつまり、ついて来いって事だと、天音は瞬時に理解した。

「あ、ありがとう!!」

天音は嬉しそうに小走りに、彼の後をついて行った。
やっぱり彼は、口は悪いが、いい人にはちがいない。天音はそう確信していた。

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