何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「あ?」

男は尚も睨みを続け、威嚇するような声を出した。
しかし、天音は、そんな男にはお構いなしに、男の方へと近づいていき、その大きな丸い玉へと手を伸ばした。

「花火にさわんな!!」

男はそんな天音の行動を阻止するかのように叫んだ。

「へー、花火ってこんな丸い玉なんだ!あ、もしかして即位式の花火もあなたが?」
「さーな。花火作りは別に禁止されてねーよ。」

怖いもの知らずで、人見知りなど全くしない天音は、明らかに天音を邪魔者のように睨んでいる男に向かって、普通に話しかけていく。
男もそんな天音に感化されたのか、めんどくさそうではあるが、天音の問いに答えてくれた。

「あの花火、なんだか悲しそうだった…。」
「あ!?お前一体何者だ!」

天音が無意識に、ポロリと口から落ちた言葉に、男は突然、怒鳴り声を上げ、急に天音の手首を力いっぱいつかんだ。

「い、いたいよ!!」

天音は彼の力の強さから、思わず声をあげ、自分の腕を引っ張ってみたが、びくともしない。
天音がじたばた暴れていた時、天音の耳にぶら下がる十字架のピアスが、太陽の光に反射し、その光が男の目に飛び込んだ。

「うっ!!」

そして、男は思わずその光に目をつぶり、その手を放した。

「ちっ!お前…あの城のもんなんだろう!」

男は仕方なく、暴力行為に出る事は諦めてくれたらしい。ただやはり天音の素性についての問いは、止む事はない。

「え?私?妃候補だよ。」
「は?」

男は、さらに顔を歪めて思いっきり不機嫌な声を出した。

「知らないの?天師教さんの…。」
「…知ってる。」
「なんだ、知ってるんじゃん。」
「よくしゃべる女だな!」

男は我慢しきれず、天音の声にかぶせるように、怒鳴り声を上げたが…

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