何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「ねえ。なんであなた花火なんて作ってるの?あ、花火師さん?」
「うるせーな!」

道中でも、足を動かすのと同じように口を動かす天音に、さすがの男も天音を連れてきた事を後悔し始めていた。
始めは、天音の質問に無視を決め込んでいたが、それでも天音の口は止まる事はない。
しかし、その地獄のような時間はやっと終わりを迎えていた。
山の麓へと降り、少し歩いた所で少しづつ民家やお店が見え始めた。

「あ、着い…。」「キャー!!」

天音がその光景に安堵し、口を開いたのと同時に、どこからか女性の叫び声が聞こえ、天音の耳をつんざいた。

「え?何?」

その悲鳴に、天音は何が起きたのかわからず、周りをキョロキョロと見回した。

「また出たぞ!」
「アイツ月斗だ!」

すると天音達の周りに、なぜか町の人々が遠巻きに、集まって来た。
そしてその視線は、ここまで天音を連れてきてくれた、その男に集中していた。

「さっきのねずみ花火もお前だろ。営業妨害しやがって。」

一人の男が恐る恐るだが、口を開き、天音の後ろに立つ男に向かって苛立ちの言葉をぶつけた。

「だったら?」

当然その言葉に反論すると思っていた天音だったが、しかし、男は口端を上げて、ニッと不気味に笑った。

ガシ
すると突然彼は天音の腕をつかんだ。
しかし、先程手首を掴まれた時ほど、力は強くはなかった。

「な、何?」

天音は、この状況が未だ理解できず、無表情の彼の顔を見上げた。
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