私、愛しの王太子様の側室辞めたいんです!【完(シナリオ)】
第6話「犯人はお前だ!」
〇王城の厨房(昼)
ローズマリー「ブラッド……ごめんなさい。私の我儘のせいで迷惑を掛けてしまって……」
ローズマリーは萎れたように俯いた。
ローズマリー(関係者には箝口令が出でいる。そして、女官長が全員解放と言っていた通り、私とブラッドも自由。……だけれど)
チラリとローズマリーはブラッドの背後を見る。
ブラッドに負けず劣らずの屈強そうな騎士が二人、ブラッドの様子を監視していた。ちなみにローズマリーには昨日からずっと、女騎士が二人付いている。カリスタにも付いていた。
ローズマリー(……騎士の監視が付いているのよね)
ブラッド「大丈夫ですよ。流石にびっくりはしましたし、未だに冤罪が晴れていないのは辛い所でもありますが、ローズマリー様が落ち込む事ではありません」
ローズマリー「……でも、」
眉をギュッと寄せて、ローズマリーは尚も言い募ろうとする。その様子にブラッドは真剣な顔で口を開いた。
ブラッド「それでは、ローズマリー様がユリシーズ殿下に毒を持ったのですか?」
ローズマリー「そんな事する訳ないじゃない!」
キッと間髪を入れずに返したローズマリーに、ブラッドはにんまりと笑う。
ブラッド「それでしたら堂々とされていればいいのです。私も、ローズマリー様も、ユリシーズ殿下に毒なんて盛っていない。ほら、私もローズマリー様も悪くないです。だから、謝る必要なんてないんですよ」
やや俯いているローズマリーに、どうしようもない子供をあやすような瞳で、ブラッドは微笑む。
ブラッド「ユリシーズ殿下も、ローズマリー様が毒を持ったなんて思っていないでしょう?」
(回想)
〇ユリシーズ王太子後宮・ローズマリー私室(昨夜)(第五話)
ユリシーズ「君が毒を盛っていないって僕は信じているからね」
(回想終了)
ブラッドの言葉に、ローズマリーの瞳に涙が滲んだ。
ローズマリー(そうだわ……。ユリシーズ様も信じていると言ってくださったのに……)
手の甲でやや乱暴に涙を拭った。そして、ブラッドを見上げて口を開く。その口元は勝気な笑みが浮かんでいた。
ローズマリー「ありがとうブラッド。私、弱気になっていたみたい」
ブラッドはローズマリーの反応に、やや虚をつかれたように目を見開く。そして目を細めて痛ましそうに小声で呟いた。
ブラッド「本来なら、子供に我慢させることでも、被疑者になることでもないんだがなぁ……」
ブラッドの声は誰にも聞こえず、近くにいたローズマリーは首を傾げた。
ローズマリー「どうしたの?」
ブラッド「いいえ、何でもありませんよ。今日は私の部下が作ったキャンディがあるんですけど、食べますか?」
ローズマリー「え?!いいの?!」
ローズマリーはキャンディという言葉に表情を明るくする。つられてブラッドもニカッと白い歯を見せて笑った。
ブラッド「甘い物は人を幸せにしますからね。あと、寝る前は食べちゃダメですからね」
ローズマリー「もう!ブラッドったら、私は立派な淑女(レディ)なのに……」
文句を言いつつ、ローズマリーは両手を差し出してブラッドからキャンディをもらっていた。
〇ユリシーズ王太子後宮・ローズマリー私室
ローズマリーはブラッドから貰った飴を人差し指と親指で摘んで、窓から射し込む光に当てる。青と紫の色をした飴は、光に当たってキラキラと宝石のように輝いた。しばしの間ジッと見て、ローズマリーはやく口に入れる。部屋のテーブルの上のキャンディポットには、色とりどりのキャンディが詰められている。
カリスタ「……それにしても、はやく誤解が解ければいいですねっ!」
カリスタは部屋の隅に控える女騎士を横目で見ながら、やや腹立たしそうに言った。女騎士達にも勿論聞こえている。だが、女騎士の片方が目を眇めただけで、無言を貫いていた。
ローズマリー「そうね」
キャンディで頬を膨らませながら、ローズマリーはカリスタの方を向いた。
ローズマリー「カリスタも大丈夫だったの?旦那様が心配していたのではなくて?」
カリスタはほんの一瞬、言葉に詰まったような、気まずいような、曖昧な表情を浮かべる。
カリスタ「……私の所は大丈夫です。問題ありませんよ」
ローズマリー「?」
カリスタの変な様子にローズマリーが不思議そうに首を傾げる。
カリスタ「そんなことより、私はローズマリー様が疑われるのが許せません!ローズマリー様は何もしていないのに!!」
憤るカリスタは、拳を握り締める。そして、ローズマリーに詰め寄った。
カリスタ「絶っっ対、犯人は女官長ですよ!前々からローズマリー様にネチネチネチネチ嫌味言っていましたもん!ローズマリー様に罪をなすりつけて、後宮から追い出すつもりです!」
目尻を人差し指で吊り上げて、女官長の真似をするカリスタ。意外と似ていて、ローズマリーは思わずクスクスと声を出して笑った。
ローズマリー「カリスタ、似すぎよ。……確かに女官長は厳しすぎるけれど……」
ローズマリー「…………でも、ユリシーズ様に毒を盛ってまで私を後宮から追い出したいのかしら?」
やや沈んだ表情で、ローズマリーは声のボリュームを落とした。カリスタは眉間に皺をよせる。
カリスタ「なりふり構っていられないって事じゃないですか?」
ローズマリー「でも、本気でユリシーズ様を殺してしまっていたかもしれないのよ?」
カリスタ「それもそうですねえ……」
うーん、とカリスタは顎に手を当てて考え込む。やがて、彼女は指を四本立てる。
カリスタ「取り敢えず、今の被疑者はローズマリー様、私、女官長、ブラッドの四人ですね」
カリスタ「ローズマリー様が毒物を持っていたら、身の回りのお世話を任されている私が分かります。ですので、ローズマリー様は犯人から外れます」
カリスタは指を一本折り曲げ、三本だけ立てたままにする。
カリスタ「これで犯人候補は私と女官長、ブラッドになりました」
ローズマリーはカリスタの指をじっと見る。
カリスタ「そして、私は主であるローズマリー様が疑われるような事をする訳がありません。雇用主を失うことは痛手ですので、候補から外させていただきます」
ローズマリー「まあ、そうよね……」
ローズマリーが頷くと、カリスタは指をもう一本折り曲げる。二本だけになった指を自身の目の前まで掲げたカリスタは、真剣な表情で推理を続ける。
カリスタ「残りは女官長とブラッドのみ。この二人のどちらかで、ローズマリー様に良い感情を抱いていないのは女官長です。そして、ブラッドがバタークッキーに触っていた時は、クッキー自体ランダムで、誰がどれを食べるか分かっていなかった」
カリスタの言葉に、ローズマリーは件の事件の時を思い出す。確かに、ブラッドはクッキー作りの時には触っていたが、ユリシーズにあげるものはローズマリーが決めた。ブラッドは触っていなかったように思う。
カリスタ「でも、女官長はラッピングした後とはいえ、誰も見ていない時にユリシーズ殿下に差し上げたクッキーを持っている。……とまあ、つまり消去法ですね。この状況から、女官長が犯人で間違いないですよ」
ローズマリーも考え込んでいたが、カリスタの言う事は間違っていない。
ローズマリー「確かに……カリスタが言う通りだわ……」
ローズマリー(女官長が犯人だとして……、動機はやっぱり私がユリシーズ様に相応しくないから……?)
ズキリ、と胸が痛んだ気がして、手を当てる。
ローズマリー(分かっているわ……。私がユリシーズ様に相応しくない事は。だって、ケイシー様がいるのだもの)
ローズマリーはギュッとドレスの胸元を握り締めた。
ローズマリー(私が相応しくないのなら、ユリシーズ様を痛めつけるのではなくて、私自身に攻撃してくればいいのに……)
ローズマリー「卑怯だわ……」
カリスタ「ローズマリー様?」
ポツリと滑り出たローズマリーの言葉に、カリスタは首を傾げた。
ローズマリー「卑怯だわ。私の事が気に入らないのなら、私に直接くればいいのに……」
ローズマリー(痛いのも、怖いのも、嫌い。けれど――、)
ローズマリーはくしゃりと顔を歪ませる。ユリシーズの顔色は良好だった。毒に耐性があると言っていても、完全に無事だった訳ではないということは薄々感じている。
ローズマリー「私の大事な人が傷付く方が、よっぽど堪えるわ……」
カリスタ「ローズマリー様……」
カリスタが憐れむように声を掛けた時、部屋の外にいた女騎士がローズマリーに声を掛けた。
女騎士3「ローズマリー様。第二側室のリリアン様の使いが参りました。お茶会へ招待したいとの事ですが、いかが致しましょう」
ローズマリー「……リリアン様が?」
ローズマリーは目を丸くした。
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