Before dawn〜夜明け前〜

瞳の奥



「いぶき、今日は友達を家に招待したの。
アフタヌーン・ティーを用意して。
あと、友達が来てる間は、あんた、絶対にバレないようにするのよ」

ある日曜日のこと。
ひどくオシャレをした玲子がいぶきに言った。

彼氏か、意中の男の子が来るのだとすぐにわかる。
これまでにも、片手では数え切れないほどの男を家族に紹介していたからだ。

玲子はモテる。
明るく社交的な性格で、見栄えも良い。しかも風祭の一人娘という付加価値に男は群がる。

そんな玲子の今回のターゲットは…


「同級生の一条拓人君と、後輩の丹下広宗君よ。
お父さまは、ご存知でしょう?」
「これは、これは。ようこそ風祭家へ。
お父様がたには、いつもお世話になっていますよ」

玲子と英作がわざわざ玄関まで出て二人の客を迎え入れた。

いぶきは顔を見られないように深々とお辞儀をして、2人を客間へと案内すると、さっさとキッチンへと向かった。

まさかの生徒会長と、同級生。
玲子がバレるなとクギを刺すはずだ。

でも、まだ学校に通い始めて10日ほど。
入学式で少し会ったくらいでそれ以降、一条拓人とは顔も合わせていない。

丹下広宗は同じクラスだが、こちらもほとんど話をしたことはない。
しかも丹下は、気が向いた時しか学校に来ないので、多分、いぶきの存在すら知らないはず。

「ちょっと、いぶき、早くお茶を出しなさい」

キッチンに、玲子の母、早苗(さなえ)がイライラした様子でやって来た。

「すみません、奥様。
いらしたのは、生徒会長と同級生なのですが、私がお持ちしてよろしいのでしょうか?」

「バレやしないわよ。
御曹司だもの、使用人のことなんていちいち気にされたりしないわ」

しかたなくいぶきは、お茶とお菓子を乗せたトレーを手に客間へと向かった。

客間では、英作の姿はすでになく、浮かれた玲子が一人で喋っている。
一条は、うっすら笑みを浮かべて聞き役を、丹下は、退屈そうにあくびをしていた。

「お茶です。
どうぞ」

いぶきが、まずは上座の一条にティーカップを出す。

「あぁ、ありがとう」

一条の漆黒の瞳がいぶきを見た。

表情は、変わらない。
だが、瞳は使用人の正体など見透かすくらい真っ直ぐに、いぶきを見ていた。

いぶきは、慌てて目をそらし、今度は丹下にお茶を出す。

「どうぞ」

「ん…」

丹下のほうは、いぶきを見もしない。
当然、気づかない。

テーブルの上に、軽食とお菓子を並べ、いぶきはお辞儀をして出て行こうとした。

その時。
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