幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
そんなことを考えていた私を見て、森下先生は腕を組んで、
「まぁ、でも、現状はもちろん佐伯先生のほうが、ファンが多いわよ?」
と恐ろしげなことを言う。
(ファン? 誰に?)
「え?」
「なんだかんだ、あの人すごいじゃない。あの年で准教授はないわ。私は絶対無理」
医学部と言う場所は、他の学部より昇進が難しいと言われている。
確かに健一郎の年齢で、准教授となっている先生は他には誰もいないのだ。
でも、私にとっては、それはどうでもいいことだ。別に健一郎が助教だろうが、教授だろうが変わらない。というか、どのポジションだろうが、私にとってはただのストーカーだ。
ただ、他の人からの健一郎は評価は良かった。それがきっと影響しているのだろう。
「そういうのって、実力だけじゃなくって、多少後ろ盾もあるんでしょう?」
健一郎の実力を見くびっているわけではないが、正直、あのストーカー男がそんなに仕事ができるほうだとは思っていなかった。むしろバリバリ仕事ができる健一郎なんて、想像もできない。確かに、道で倒れた女性の処置は手早かったけど……。
「うーん。あの人、なんだかんだオタクなのよ。医療オタク。症例とか全部頭ン中入ってるし。手先も器用で、記憶力もよくてさ」
そんなこと、初めて聞く気がする。驚く私に、森下先生は「それで人当りもいいから患者さんからも信頼あるし、発想力あるから研究費ガンガンとってくるし」と続けた。
研究費をとってきているのは知っていた。それがすごいのかすごくないのかの判断は私には正直よくわからなかったのだ。
まぁ、でも、ストーカーをするほど粘着質なので、オタク気質なのには納得できる。
たぶん、私のことならどんな些細なことでも覚えているのと同じように、医学書も覚えているのだろう。どちらにしても、私にとっては、かっこいいというよりは、気持ち悪いことこの上ない。
「三波ちゃん、誰もがうらやむスパダリと結婚してるのよ?」
「なんですかスパダリって。私に対してはそれ以上の残念スペックがあるんですけど」
そうだ。スパダリだろうが、天下りだろうが、いくらどんなに健一郎の持つスペックがすごくても、私には残念な部分が大きすぎるのだ。
―――すべてを打ち消すほどに。