夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫

愛と幸せの時間




ゴーン ゴーン...




城の東側にある神殿から厳かな鐘の音が聞こえる。
歓声が沸く城外をよそに神殿内はピンと張り詰めた空気が漂う。
王族貴族招待客が息を潜め待つ中、神殿の扉が開きあちこちからため息が漏れた。

真っ白な軍服に身を包んだセイラスは何時にも増して凛々しく輝いて見え、その隣には純白のウェディングドレスに長いベールを纏ったリノンが美しい微笑みを湛えていた。

一歩一歩ゆっくりと歩く二人を涙を溜めて見守っていたミレイアは横を通りすぎた時ににこりと笑いかけてくれたセイラスとリノンに堪らず涙が頬を伝う。

「泣くのはまだ早いんじゃないか?」

横にいたラミンがそっとハンカチでミレイアの涙を拭き小声でからかう。
ニヤリと笑うラミンを横目で睨んだけどもつんとそっぽを向いてセイラスとリノンの後ろ姿を見つめていた。
神聖な空気の中、生涯の愛を誓い合う二人に感動してまた涙が浮かぶ。
永い眠りから覚め、敬愛する兄セイラスの結婚式に参列することが出来、ミレイアは感謝と感動が胸を焦がし隣にいるラミンの熱をそっぽを向きながらも感じていた。

私もいつか…。
つい温かい手に触れてしまうとその手がしっかりと指を絡ませ握ってくれた。
横を向けば先ほどとは違う優しげな瞳と目が合いこみ上げる涙がまたほろりと頬を伝った。

「いつか…いや、直ぐにでも…」

ぽそりと呟かれたラミンの言葉はミレイアの耳にしか聞こえない。
その言葉の意味をドキリと感じ涙をそっと拭われはにかみ微笑み返していると反対側から、「ゴホン」と咳払いが聞こえる。
振り向けば隣のトニアスが目配せで前を見ろと言っているようだった。

「げ…」

ラミンが小さく声を上げピシッと背筋を伸ばす。
それでも繋いだ手は離さずミレイアのドレスでそっと隠した。
目の前ではセイラスとリノンが苦笑いを浮かべこちらを見ていた。
その後ろで物凄い形相でラミンを睨むアルトバル国王。

ミレイアはラミンと国王を交互に見てセイラスと目が合うとぷっと吹き出してしまった。
クスクス笑うミレイアに皆の注目が集まる。

セイラスの結婚もそうだがミレイアが目覚めて初めての公の場に皆は興味津々で、姿を現したミレイアの愛らしい姿に釘付けになった。

あれが世界を救った王女
あんな愛らしく華奢な王女を恐れ毛嫌いしていた者達は何て愚かな事をしていたのかと目が覚めた様に悔い改め、皆に疎まれながらもその小さな体で大業を成した王女に感謝していた。

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