さよなら、片想い
10.リミッター解除
 四月。新卒採用者がどの部署に何人入るという話と合わせて、岸さんの退社が非公式に伝えられた。
 誰もが戸惑いを隠せなかったなか、当の本人だけはいつもと変わらない様子だった。
 違うのはその傍らに新入社員の男の子がいることくらい。岸さんが意匠部の彼らの指導にあたっていた。
 
 私も人の心配ばかりしていられない。この春、内職パートの教育係を担当することになった。
 自宅で友禅作業にあたる方を募集し、教室を開ける人数が揃ったところだった。
 総勢八名。年齢は子供が就学した人からお孫さんのいる方までさまざまだったけれど、全員が私を先生と呼んでいる。


 教室は郊外に用意された。出社したあと、友禅課の外回りの人に車で送ってもらい、時間になると迎えにきてもらう。昼はお弁当持参か近くのコンビニで調達だ。
 年齢幅はあるものの、女性ばかりの教室の雰囲気は良好だった。作業机を向かい合わせにして座っていたので話しかけやすいし、ときには趣味の話もできた。
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