旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
●海老の事情

 カニ――蟹江理子は、同期の中で最も信頼できるヤツだった。気さくで話しやすく、仕事に対して真面目で、自分たちのチームが手掛けたイベント前は、よく一緒に残業したものだ。

『ねえ見て、明日の天気予報、急に気温が変わった。寒そうだから、ブランケット要るかも』
『あー……確かに。でも六十人分だぞ? 今から手配して間に合うか?』
『ダメもとで聞いてみるよ。こっちから取りに行くってのはどうかな』
『わかった。もしそうなったら車出す』

 カニはクライアントはもちろんのこと、イベントに集まってくれる人々への細やかな気配りも忘れない。俺はそんな彼女に感心するとともに、自分も負けてはいられないと刺激をもらっていた。
 ……しかし、最近の彼女はどうも不調のようで。

『もー、ホント最悪。最近なにもかもうまくいかない』

 会社で浮かない顔をしていることが増えた彼女を飲みに誘うと、開口一番そんな愚痴が飛び出した。

 話を聞けば、恋人とは破局間近。俺が抜けた後のチームがうまく回せない。そのチームのうちのひとりから、強引に言い寄られている。……と、愚痴を言いたくなるのも仕方がない散々な状況らしかった。

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