婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
君が好き
 
 茉莉子を初めて目にした時の印象は、真面目そうで穢れのないお嬢さん。

 だからこそ俺の素顔を見せれば向こうから俺との婚約など願い下げだと言うと思ったのに、冷酷な態度を取る俺を見て、『取り繕った姿よりそっちの方が人間臭くていい』と言ってのけた。

 これまで親の期待に応え続け、みんなが望む桜宮家の跡取りを演じてきた俺にとって、その言葉は二十九年間をすべて否定されたのと同じだった。

 だからといって嫌な気持ちになったわけじゃない。むしろ不思議と興味が湧いた。

 俺と同じように将来を選べず窮屈な環境に置かれている彼女が、これまでどう生きてきたのか。どんな考えを胸の内に秘めているのか、知りたくなった。

 会う度によく観察して分かったのは、おしとやかそうな見た目に反して自分の意見ははっきりと言うし、裏表のない真っ直ぐな人間だということ。
< 161 / 166 >

この作品をシェア

pagetop