瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 不意にレーネは、庭の一角に特別に区切られ屋根も設置されているガゼボに注意がいった。誰かがいる気配を感じ取ったのだ。

 この城に庭師はいただろうか。そんな疑問を抱きつつゆっくりと近づいていく。

 くすんだ緑色の装飾と柱で囲まれた内部は、明らかに観賞用ではなく、密集して植物が植えられていた。薬草園だ。

 そこにはレーネと年の近い若い女性が慈しみの眼差しで植物の世話をしていた。

 穏やかな緑色の瞳は細められ茶色い髪は肩下まで伸び、ゆるやかにサイドを編み込まれている。黄色いドレスは派手すぎず彼女によく似合っていた。

 同じくレーネの気配を感じて、女性が視線をこちらに寄越す。

「どうされました?」

 正面から見ると、思ったよりもあどけない印象だった。

「すみません、突然」

 レーネはぱっと視線を逸らし瞬時に辺りを見渡す。さすがにここに探し物はない。

「失礼ですが、マグダレーネさまですか?」

 唐突に名前を呼ばれ、レーネは目の前の女性に意識を戻した。レーネの反応を肯定と捉え、彼女は律儀に頭を下げる。

「お初にお目にかかります。アードラーのひとりスヴェン・バルシュハイトの妻、ライラ・ルーナと申します。お話はお伺いしています。陛下とのご成婚、心より祝福を申し上げます」

 ぎこちなく妻と発言するのが、初々(ういうい)しさを感じる。しかし自己紹介をされて動揺したのはレーネの方だ。ライラの存在はクラウスから聞いていた。
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