"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる

まさか、な。

荷物を全て家の中に入れて気づいた。

大学生男子の荷物なんてたかが知れている。


折角、大和室という大きな部屋があるのだから、そこを自室にしようと考えていたが広すぎた。

荷物は小和室で収まってしまうし、利便性を考えればそこを自分の部屋にするのが一番いい。

自室を決め、家具の配置を決めてしまえば後は早かった。


ガスと電気と水道も使えることを確認済み。あとは空っぽの冷蔵庫をどうにかするだけだ。

管理人に渡された地図では駅の近くにスーパーがあるらしい。……駅の近くに、な。

真夏の太陽の下、アスファルトがゆらゆら揺れて見える。
陽炎がどこまでも、果てしなく続いている。


………夏はこれが毎日続くのか。



げんなりしても冷蔵庫は空のままだ。家賃がタダな分、デメリットだってつきものだ。仕方ない。


ダラダラ歩くと余計に暑さを感じそうで、走って坂を下った。



スーパーは地図通り駅の直ぐ近くにあった。やたらと大きな四角で描かれていたが、全国展開しているスーパーだけあって確かに大きい。

中に入れば冷房がよく効いていて、火照った肌が冷やされていく感じが気持ちいい。


必要なものを籠の中に入れ終え、残りは引越しの挨拶と昨日のお礼を兼ねたものを買えば終わり。


スマホで『引越しの挨拶、渡すもの』と、調べればお菓子や洗剤、タオルがランキングの上位を占めていた。

タオルは好みが分かれるし、洗剤は俺には分からん。
バリエーション豊富なお菓子を選ぶのが妥当か。

レジ横の土産物のショーケースの中から十種類のクッキーが入ったものを選んだ。


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