二度目の結婚は、溺愛から始まる
懐かしくて新しいもの

久しぶりに祖父の家で朝を迎えたわたしは、気まずいというより気恥ずかしい朝食を終え、逃げるようにして玄関まで蓮を見送りに出た。

朝八時の段階で、すでに一日分のエネルギーを使い果たした気分だ。

さりげなく、わたしたちの仲がどれくらい進展しているのか探ろうとする祖父。
あれこれとわたしたちの世話を焼きながら、含み笑いを隠しきれない志摩子さん。

結託した二人の攻撃に、蓮は爽やかな笑顔と巧みな切り返しで動揺ひとつ見せなかったが、わたしはそんな鉄の自制心を持ち合わせていない。

赤くなったり青くなったり。乱高下する体温と感情に振り回されてぐったりだ。


「蓮、今日は遅くなるの?」

「日付が変わる前には帰れると思うが、週末まで忙しい。夕食は会長と一緒にしたらどうだ?」

「また蓮を呼ぶって言い出すわよ?」

「さすがに、俺は何泊もするわけにはいかないが……椿だけでも泊まったらどうだ? きっと会長は、椿と話し足りないだろうし」

「でも……」


大好きな祖父と一緒に過ごしたい気持ちはある。
けれど、あまりにもあっさり外泊を許可されると、何となく面白くない。


「蓮は……いいの? わたしが帰らなくても」


つい、そんなことを口走ってしまう。

蓮は目を見開き、舌打ちと共に小さく呟いた。


「……勘弁してくれ」


舌打ちするなんて酷い。
そう抗議しようとした唇は、不意打ちのキスで封じられた。

しかも、「いってきます」の軽いキスなんかではない。
これからベッドへなだれ込むような、濃厚なキスだ。

わたしの膝からすっかり力が抜け、へたり込んでしまうほどのキスを見舞った蓮は、顔をしかめてお説教した。


「朝から、そういうことを言うんじゃない」

「そういうことって?」


知らず、呆れられるようなことを言ってしまったのではないか。

そんな不安に、問い返す声が震えてしまう。


「自覚がないのが、一番手に負えない……」


蓮は深々と溜息を吐き、床に座り込んだわたしの両脇を掴んで立たせて、朝に相応しいキスをした。

新婚の夫婦が交わすような、軽く、優しく、甘い――わずかな物足りなさを感じさせるキスだ。


「……今夜は、家に帰って来てほしい。椿と二人きりで過ごしたい」


唇を離した蓮の「これで文句はないだろう」と言わんばかりの表情に、先ほどの自分の発言が拗ねているように聞こえたのだと気づいた。


(わたし……っ)


恥ずかしさに顔を赤くしたわたしを見て、蓮がにやりと笑う。


「ご機嫌は治ったかな? お嬢さま」


とにかく、頷くだけで精一杯だった。


「それはよかった」


蓮は、熱を帯びたわたしの頬を指の背でひと撫でして、微笑んだ。


「いってきます」

「……いってらっしゃい」


声にならない声で呟き、蓮が玄関を出ると同時にしゃがみ込む。


(恥ずかしすぎる……新婚でもないのに……夫婦でもないのに……恋人でも……)


髪をかきむしり、その辺を転がり回りたい気分にかられた背に、ひそひそ声が聞こえた。


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