エリート御曹司が花嫁にご指名です

四、抗えない存在「優成SIDE」

 彼女はずっと俺の秘書でいると思っていた。

 一条汐里は我が家の主治医の娘で、彼女が幼い頃から親交があった。

 十代、二十代では、七歳差の俺はほとんど顔を合せることがなかった。汐里を妹のように可愛がっているのは華だった。
 
 華がハワード・シモンズに嫁いでも、仲のよさは変わらないようだ。ときどき、ふたりから話を聞くことがあった。
 
 汐里はお嬢さま学校で有名な私立女子大学を卒業し、わが社へ入社した。
 
 正規の入社試験で、彼女は見事に首位を取っての入社だった。容姿端麗、頭脳明晰、思慮深さもある汐里を、社長である親父も気に入っている。

 折に触れて、朝陽か俺の嫁にどうだ、と口にしていた。

 朝陽はひとり忘れられない女の子がいて、親父の言葉など無視していた。

 俺に至っては、汐里は妹みたいな存在で、その頃は妻にするなどと考えられなかった。いや、過去の恋人たちでも結婚は意識できなかったのだ。

 三十五歳の今まで、女がいなかったとは言わない。交際中は誠心誠意、相手をお姫さまのように扱った。

 しかし、AANの後取りの俺に、彼女たちの欲が出てくると、途端に愛が冷めてしまう。その繰り返しだった。

 
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