バイオレット・ダークルーラー
願い
◇
「紫月」
「………」
「…紫月、いたいよ」
「っ!悪い、強く握りすぎた」
――…彼がペレストロイカの最上階に住んでいるのだと、今更になって気付く。
今までは裏口から直通エレベーターで来ていたんだ。ぼんやりいくつもの点となっていたものが、徐々に線になり始めている。
わたしを部屋に入れた紫月に、いつもの余裕はない。
「……朱里、今日は帰したくない」
「っ、」
「親御さんに許可取って。…電話で俺がお願いしてもいいなら、するし」
「…いいよ。どうせ朝帰りしたって、」
「ダメだ。…親御さんとちゃんと、向き合って」
――…懇願に似た瞳。
…彼の言っていることは正しい。だからこそ、しぶしぶ通話ボタンを押すしかなかった。
『はい、水城です』
「…あ…、絵美香さんですか。朱里です」
『っ、朱里ちゃん!今日は帰ってくる?ご飯作ろうかと思ってて、』
「…ごめんなさい。今日は彼氏の家に泊まるので帰りません。父にも伝えてください」